皆さんの家や、またはご近所さんのお家には、以前「焼却炉」という物がありませんでしたか?
まるで陶芸家の作家さんが用いる窯の小さい版のような、ボディがレンガやコンクリートで出来ていて、中が空洞になっていて煙突があるタイプの焼却炉です。
僕の家にはありました。
紙ゴミとかダンボールとか刈り取った芝や雑草など、簡単に燃やせるゴミはその中に入れて、火を付けて燃やしていました。
しかし10年ほど前でしょうか、我が家にあった焼却炉や、ご近所の家にあった焼却炉は無くなってしまいました。
火災の原因になりかねないということもあるでしょうが、ゴミが燃えきれなくて発生した未燃焼ガスや有毒ガスのことが、家庭用焼却炉が減った原因と言われています。(しかし例外等もあり、完全に家庭用焼却炉が無くなったわけではありません。)
ゴミのことだけではありませんが、このように「昔は良かったけど今はダメになった」ということはよくあります。
自動車のシートベルトを例に挙げると、今は後部座席まで義務化されていますが、かつては後部座席のシートベルトは任意でした。
時代の移り変わりに伴い、昔は良しとされてきたことが、今では悪しとされるのです。
今日はゴミや廃棄物における「昔は良かったけど今はダメになった」という事象を作り上げている「廃棄物処理法」を紐解いていきます。
廃棄物処理法の変遷~なぜ今と昔で違うのか?~
「昔は良かったけど今はダメになった」というのは、結果的に廃棄物処理法の内容が、時代の変化に伴って、新たな要素が付け加わることで起きると言えるでしょう。
では、廃棄物処理法がどのようにして生まれ、どのような移り変わりをし、結果ごみや廃棄物を取り巻く環境がどうなったかを紹介します。
生まれは明治時代
廃棄物処理法の最初は、明治33年に制定された「汚物掃除法」という法律が起源となります。
明治33年ですと1900年ですから、すでに100年以上の歴史がある法律ということです。
汚物掃除法とはその名の通り、汚物や糞尿に関する法律です。
なぜこのような法律が出来たかというと、江戸時代から明治時代になると、我が国日本は「近代化」を成し遂げました。
近代化した結果、汚物や糞尿の動きがそれまでと変わってしまったのです。
汚物や糞尿はそれまでは田畑の肥やしになっていましたが、近代化し都市化をした結果、田畑が少なくなり汚物や糞尿を直接肥やしにすることが難しくなったのです。
そうなると汚物を田畑の肥やしではなく、単純に汚物として処理しなくてはならないということになるのです。
ですが汚物をその辺にポイッと捨てるわけにもいかず、ましてやその辺にポイッと捨てると「ペスト」などの伝染病の発生源になってしまう恐れがありました。(実際に当時の日本は、外国から多くの伝染病が入ってきていました。)
その結果、汚物はその辺にポイッと捨てるのではなく、ちゃんと処理して掃除しなければならないという公衆衛生の目的で作られたのが、汚物掃除法なのです。
昭和で更に変わる
第二次世界大戦後の昭和29年、汚物掃除法は「清掃法」という名称に変わります。
それまでは市町村の行政が直接ゴミの収集や処理を行ってきたのですが、高度成長に伴って企業や家庭から大量のゴミが排出されるようになり、市町村の仕事を圧迫し始めました。
また、水俣病や四日市ぜんそくに代表される公害病の原因となるような工業汚物は、市町村などの行政側ではどうにも処理ができない状況でした。
これらの理由により、市町村が直接ゴミを処理するのではなくごみ処理業者を介してゴミの処理をするということと、工業汚物や産業廃棄物を出す企業は自分達でそのゴミを業者に依頼して処理するように定めたのが、清掃法なのです。
また、このタイミングで環境庁(現・環境省)が出来ました。
1970年、清掃法に廃棄物の処理などが付け加わり、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」という現行名になるのです。
1977年には、業者の産業廃棄物や一般廃棄物の処理が許可制になりました。
平成になって法律が増える
当時のゴミという物は、燃やすか埋めるかしか処理の方法が確立されていませんでした。
そこで現れたのが「リサイクル」と「循環型社会」という概念です。
つまり、今までは不要になった物は全て捨ててきましたが、資源を有効利用するために使える物や素材は再利用して再度商品化して使っていこうという考え方です。
これに伴って「循環型社会形成推進基本法」が2000年に制定され、また「容器包装リサイクル法」や「家電リサイクル法」などリサイクルに関する様々な法律が出てきます。
これ以後、自動車リサイクル法やパソコンリサイクル法や小型家電リサイクル法など、様々な物をリサイクルするための法律が制定されるようになります。
このように近代化~高度成長という歴史の大きな転換点が、ゴミや廃棄物にも変化をもたらしてきたということがわかります。
時代の流れが多様なゴミや廃棄物を生み出す要因となり、それら多様なゴミや廃棄物を適切に処理していく上で様々な法律が必要となり、結果現在のようなゴミ・廃棄物の処理様式が完成したと言えるでしょう。
廃棄物処理法の詳細について
どのような性質を持つ法律か?
約100年を経て変化をしてきた廃棄物処理法は、どのような性質を持つ法律なのでしょうか?
上の章で紹介した通り、ゴミや廃棄物は時代の流れに沿って種類が多様になり、それに伴って地球環境や人間に害を与えない様な処理の方法が確立されてきました。
なので廃棄物処理法はゴミや廃棄物は適切・適正に処理しなければいけないという規制法としての性質が強いです。
つまり国や社会からしてみれば、自己都合や個人・一企業の勝手な判断でゴミや廃棄物の処理をしてもらっては困るということです。
ゴミの分別も言い換えれば基準を設けた規制です。
例えば、燃えるゴミにアルミ缶を捨ててはいけないですとか、埋立ゴミの中に個人事業で廃棄したゴミを入れてはいけないとか、そういったことです。
企業・法人が排出する、かつ自分達では処理できないゴミについては、処理できる業者に委託をして処理してもらうことになっているのですが、その委託にも基準が設けられています。
そしてこの法律は、ゴミや廃棄物の排出者(法人個人問わず)が対象です。
つまり個人法人問わず誰もが廃棄物処理法の対象になるのです。
例えば、個人の場合だと野焼き、法人の場合だと不法投棄など廃棄物処理法や各都道府県知事が定める条例等を違反するようなことをすれば、警察による刑事罰や行政処分といった判断が下されます。
どんな違反をしたかによって罰則の重さは様々ですが、最高刑は懲役だと5年、罰金だと法人の場合は3億円もの額の支払いが命ぜられます。
(野焼きの場合は例外もあります。詳しくは環境省ホームページ「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行について」の第一二「廃棄物の焼却禁止」をお読みください。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行について
https://www.env.go.jp/hourei/11/000398.html
廃棄物の定義とは?
廃棄物処理法は、廃棄物に関する規制や取り締まりを規定している法律です。
では、廃棄物って何でしょうか?
どこからどこまでの範囲を廃棄物と指すのでしょうか?
廃棄物処理法の中では廃棄物は「汚物又は不要物をいう」とされています。
汚物というのは、上の章で紹介した「清掃法」や「汚物掃除法」の名残で、つまりは糞尿などのことを指します。
不要物というのはいらない物ということなので、いらない物は捨てることになるのでつまりは「廃棄物」ということです。
廃棄物処理法の第2条第1項で、廃棄物の定義を「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、糞尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他汚物や不要物で、固形状又は液状の物をいう。」としています。
一方で廃棄物の反対語は「有価物」と言います。
つまりは「有用な価値のある物」ということです。
客観的に価値のある物については、この廃棄物処理法は適用除外ということになっています。
廃棄物の判断基準
言葉を眺めてみるとなるほどと思うかもしれませんが、不要物の線引きは人それぞれですし「有用な価値のある物」と感じる部分も人によって様々で、裁判等で争点になることが多いと言います。
このことについて環境省がこのような通知をしています。
廃棄物とは、「占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却ができないために不要になった物をいい、廃棄物に該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取り扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案し判断するべきものであること。」
つまり廃棄物とは、自分で使う又は自分では使わないけど他人に売れる物は該当せず、自分も使わないし他人も買ってくれないという物であるということです。
この「売れるか売れないか」で失敗する人や企業は多いです。
例えば、あなたが鉄くずやアルミ缶を集めてを売りたいとします。
通常だったら買取専門店やスクラップ屋などが買い取ってくれます。
この時点では、鉄くずやアルミ缶は廃棄物には該当しません。
しかし、ある日突然景気が悪くなって、買取専門店やスクラップ屋が買い取ってくれなくなったとします。
売れていた物が売れなくなったということは、鉄くずやアルミ缶はこの瞬間に「廃棄物」となってしまうのです。
廃棄物処理法の対象外だった物が、対象となる物に変わるのです。
廃棄物の区分
かつて清掃法にや汚物掃除法の効力があった時代は、ゴミや廃棄物は市町村が処理することになっていましたが、現在では処理責任の違いにより、廃棄物は大きく2種類に分けられます。
産業廃棄物
それまでは市町村が処理をしてきましたが、昭和45年に廃棄物処理法が制定されて以降は、企業や事業所が排出したゴミは自分達で処理するようにとなりました。
この企業や事業所などの仕事の現場で排出された廃棄物を、産業廃棄物(略して産廃)と言います。
しかし、企業や事業所が排出した廃棄物が、全て産業廃棄物になるというわけではありません。
排出した全ての廃棄物を、企業や事業所自らが処理していては、大変な負担になり混乱が起きるからです。
大企業などの猛反発を受けた国は、産業廃棄物を21品目に限定しました。
この21品目に該当しない廃棄物については、この後紹介する事業系一般廃棄物に該当します。
21品目に限られた産業廃棄物の処理は、自分達で処理できるのであれば処理していただき、処理が難しいのであれば産業廃棄物処理業者と委託契約を交わす等の手続きを踏んで、処理してもらうようになります。
一般廃棄物(事業系一般廃棄物)
いわゆる一般家庭から排出されるゴミ、または企業や事業所から排出される産業廃棄物以外のゴミのことを指します。
これらについては、かつて清掃法や汚物掃除法があった時代と同様に、市町村が処理をするということになっています。
細かく深く廃棄物処理法を知りたい方は
廃棄物処理法について、例えば施行令や施行規則など、もっと深く詳しいことを知りたいという方がいらっしゃるかもしれません。
環境省のリンクを貼っておきますので、参考にしてみてください。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令
https://www.env.go.jp/hourei/11/000439.html
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則
https://www.env.go.jp/recycle/waste/laws.html
まとめ
江戸から明治、明治から大正、大正から昭和、そして昭和から平成と、時代が進むに連れて近代化や都市化の進行や人々の考え方の多様化につれて、ごみや廃棄物も多様化しました。
またそれまでの日本独自の生活様式が変化し、欧米の生活様式や文化が入ってきたことも、ごみや廃棄物の多様化の一因と言えるでしょう。
家庭用焼却炉や野焼きのわずか10数年前までは良しとされていたことも、より環境保全のことや人体や生き物のことを考えると、悪いこととなったのでしょう。
今までがそうだったように、これからもどんどん多様化が進むことだと思います。
そうなると、今よりももっとごみや廃棄物が取り巻く環境も変わっていくのだろうと感じます。