無害なるまで10万年!?高レベル放射性廃棄物の処理について

無害なるまで10万年!?高レベル放射性廃棄物の処理について
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第二次世界大戦で唯一の被爆国となった我が国は、それ以降世界中に核兵器の悲惨さを訴え、廃絶を呼びかけてきました。

そして、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって起きた福島第一原発事故により、日本国民だけではなく世界中が原子力の危険さや悲惨さを改めて目の当たりにする事態となりました。

核兵器のような軍事的使用だけではなく、原子力発電のような人々の生活に欠かせないライフラインの役割としてでも、原子力という存在は恐ろしい存在だと気付かされました。

福島第一原発の事故以降、世界中で原子力について見直され、特にドイツは脱原子力発電の道を歩み始めました。

ドイツは2022年までに、国内にある全ての原子力発電所を閉鎖すると発表しています。

一方でフランスでは電力の約8割を原子力発電で生み出しており、周辺他国へ電力を輸出していたり、原子力発電の技術輸出も盛んに行われています。

原子力発電に賛成をする人達は、原子力発電所で働く人や周辺の町の雇用や経済の面や、火力発電に比べて圧倒的に少ない燃料で、火力発電と同等かそれ以上の電力を安定的に生み出せるなどのメリットを優先し、原子力発電を廃止するべきではないとしています。

我が国日本でも、原子力発電所の稼働や停止のニュースが大々的に報道され、原発反対派や賛成派が意見を交わしている状況です。

さて、多くの人達が原子力発電を考える上でまず気になることと言えば、原子力発電で使用された使用済み核燃料、いわゆる放射性廃棄物をどう処理するかということが挙げられます。

非常に強い毒性があり危険とされる使用済み核燃料は、現在国内のいくつかの施設において埋設処理がなされていますが、国内だけでは処理しきれずに国外へ輸出をしている状況です。

また、核燃料サイクルといって使用済み核燃料から原子力発電で使われるウランやプルトニウムを再度取り出して使用するという仕組みもありますが、目的を果たせずにいます。

コストや効率を優先させるか、福島第一原発のような事故や処理が難しい危険な使用済み核燃料をどうするか、核や原子力発電を取り巻く環境は、岐路に立たされています。

今この記事を読まれているあなたも、ひょっとしたらコストや効率を優先させて原子力発電を進めた方が良いのか、それとも自分の子孫に有害なゴミを残すべきではないから原子力発電は止めた方が良いのではと考えているのではないでしょうか?

今回は廃棄物の観点から、使用済み核燃料(放射性廃棄物)の危険性についてや、放射性廃棄物の処理が今後どうなっていくかなどについて紹介をします。

目次

どうして放射性廃棄物は危険なのか?

「放射性廃棄物は危険」という事実は、恐らく多くの方々が既に知っていることだと思います。

それでは、放射性廃棄物が一体どのようになって危険な存在となるのか、改めて認識を深めていくことにしましょう。

食物連鎖のピラミッドを蝕んでいく

強い放射性物質によって汚染されてしまうと、川や湖に棲む魚などは死んでしまいますが、中には魚が自らの体の中に放射性物質を取り込んでしまいます。

これは魚だけでなく、動物や昆虫や野菜など、地球上の食物連鎖に関わる者たち全てに同様のことが言えます。

人間や他の動物達が、これら放射性物質で汚染された魚や野菜を食べてしまったら、どうなるでしょう?

食べてしまったその動物は、食べてしまった物と同様に、放射性物質によって汚染されてしまうのです。

破壊される細胞や遺伝子

人間や人間の他の生き物は、絶えず自然界の弱い放射線にさらされています。

しかし、例えば人間だと飛行機に乗っている時や、花崗岩の近くを歩いている時は、放射線の強い照射を受けます。

また、上の項目で書いたような放射性物質に汚染された食べ物を食べたり、放射性物質に汚染された空気やチリを吸ったりすると、放射性物質が臓器に付着し、それが細胞に入りDNAを傷つけていきます。

少しくらいの放射性物質なら人体が壊れた細胞やDNAを修復できますが、強すぎる放射線を浴びると修復不可能です。

細胞やDNAが破壊されると、呼吸器系や心臓系の疾患やガンなどになったり、遺伝子の変異などを引き起こしてしまいます。

そういったことを考えずに放射性廃棄物を捨ててしまうと、巡り巡って自分達に被害が及ぶことになるでしょう。

壊れゆく自然界や生態系

仮に放射性廃棄物が自然界に漏れたとします。

川や湖や地下水、土壌や木々が放射性物質によって汚染されてしまいます。

川や湖が放射性物質に汚染されると、そこで生活をする人間だけでなく、魚などの動物や水藻などの植物にも悪影響が出ます。

土壌が放射性物質によって汚染されると、植物が育たなくなったり、収穫された食物の中に放射性物質が入り込んでしまったりするでしょう。

絶滅してしまう生き物や植物も出てくるでしょうし、奇形な種の生物が産まれてしまうことにもなるでしょう。

本来なら川の水藻に卵を産み付けるはずの魚が、川が放射性物質で汚染されたことによって卵が産み付けられなくなったり、魚自身も死んでしまうかもしれません。

放射性廃棄物の処分の歴史

海洋投棄

昔は放射性廃棄物の処分をどうやってやっていたかというと、海に捨てていました。

国際原子力機関IAEAの発表によると、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・スイス・ロシア(当時はソビエト連邦)、そして日本という国々が、50年間で10万トン以上の放射性廃棄物を海に捨てていたのです。

特に全体の80%をイギリスが、継いでスイスが多かったようです。

ドラム缶の中に放射性廃棄物を詰め込んで、海に出て沖合まで行って、そこにドラム缶ごと捨てていたのです。

しかしドラム缶もずっと放射性廃棄物を閉じ込めておけるだけの物ではありません。

次第にドラム缶は朽ちていき、中から放射性廃棄物が海水に漏れ出していきました。

海水に漏れると海洋汚染を引き起こしました。

漏れ出た放射性廃棄物は、魚などの体の中に入り、上の項目で紹介したような食物連鎖に取り込まれてしまったのです。

海の放射能汚染に直面した国々は、先進国の放射性廃棄物の海洋投棄に反対し、民間の環境団体の反核運動を支援しました。

環境団体が撮影した先進国の放射性廃棄物の海洋投棄の映像が世界中で流れ、放射性廃棄物の処分の実態が明らかになったのです。

反核運動や環境団体の活動により、1993年の「廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約」(通称ロンドン条約)において、放射性廃棄物の海洋投棄は全面禁止となりました。

条約には致命的な“穴”があった

ロンドン条約により放射性廃棄物の海洋投棄は全面廃止されましたが、それは放射性廃棄物を詰め込んだドラム缶を積んだ船で沖合に出て、船から投棄する場合に限ります。

どういうことかと言うと、陸上からの投棄は未だに合法なのです。

例えばフランスにある核燃料の再処理施設から排出される放射性廃液は、長いパイプを通ってイギリスとフランスの間の海峡(ドーバー海峡)へと捨てられています。

その量は、毎日400cm3とされています。

フランスの民間機関の調査によると、ドーバー海峡の海底は放射性廃棄物で汚染されているとされています。

セシウムやコバルトといった放射性廃棄物を海藻や甲殻類が取り込んでしまっています。

使用済み核燃料の再利用

では現在ではどのようにして処理しているかというと、リサイクルされて大部分は再度原子力発電に使えるようになっています。

上で紹介した「フランスにある核燃料の再処理施設」では、使用済み核燃料のリサイクルをしています。

再処理された使用済み核燃料は、リサイクルできるウランとプルトニウム、そしてリサイクルができなく且つ高レベルな放射性廃棄物ができます。

ウランとプルトニウムは再利用できるのですが、問題なのが高レベル放射性廃棄物です。

ちなみに、日本における使用済み核燃料の再処理施設は、部分的に運転はされているものの未だに稼働ができていない状態です。

日本では毎年約1,000トンの使用済み核燃料が出ており、これらは各原子力発電所の保管場所に保管されているのですが、すでに保管スペースの半分以上が埋まっている状態にあるとされています。

これからの放射性廃棄物の処理について

では、高レベル放射性廃棄物はどうすれば良いのでしょうか?

人の手に触れない場所へ

日本の電気事業連合会によると、高レベル放射性廃棄物はガラスと混ぜて固化され、地層奥深くに埋設される“予定”となっています。

そして、それはあくまで予定であって未だ実現には至っていません。

奥深い地層は、石油や石炭、鉄などの鉱床が何百万年、何千万年という長期間にわたって安定な状態で保存されてきました。

自然現象や人間の活動の影響、社会の変動などの影響も受けにくく、人間の生活環境との間に「十分な距離」を保つことができ、放射能が減衰するまでの「十分な時間」を稼げれるとされています。

このような理由から、高レベル放射性廃棄物の処分方法として「地層処分」が最適であるとされています。

日本ではまだ実現されていませんが、北欧のフィンランドでは「オンカロ」と呼ばれる地層処分する施設を建設している。

2020年に運用開始が予定されているオンカロ最終処分場は、2120年までに出る高レベル放射性廃棄物を地下約500メートルの施設に埋設し、約10万年間閉じ込めるとされている。

しかし、これは地層が安定しているフィンランドだからこそできるのであって、地震が多く地層が不安定な日本では、こういった最終処分場の建設は不可能という意見もあります。

それ以前に、日本では最終処分場を設置しても良いと言ってくれる自治体が現れませんし、処分場候補地を挙げても断られるという現状です。

楽観的な意見もある

処理には楽観的な意見もあります。

日本を例に出すと、上で紹介したロンドン条約を脱退し、放射性廃棄物をドラム缶に詰めて日本海溝に海洋投棄すれば、ドラム缶ごと地表プレートの下に潜り込んで問題がなくなるという意見もあります。

また、最終処分場を日本に作るのが困難という事実を踏まえて、海外の他の国にそういった最終処分場を作らせてそこへ“輸出”すれば良いという意見もあります。

他にも、あれだけの事故が起こった福島第一原発の近くや福島県内に、オンカロのような最終処分場を作れば良いという意見や、地球を飛び出て宇宙に捨てるという意見もあります。

ですが、いずれの意見も世界世論の反発が予想され、現実的ではないと言えます。

まとめ

今のところ人間は、この高レベル放射性廃棄物を無害化する方法を見つけられていません。

昔から原子力発電は「トイレのないマンション」と揶揄されてきましたが、人間は廃棄物の処理の仕方も知らずに核や原子力を用いているのです。

フィンランドのオンカロ処分場も、結局は「10万年が過ぎる間に、高レベル放射性廃棄物の無害化技術を誰かが見つかるだろう」という考えに基づいた施設と言っても過言ではありません。

原子力発電には、コストや効率や二酸化炭素の排出の少なさがメリットではありますが、それ以上に放射性廃棄物の処理が難しいというデメリットもあります。

原子力発電をどうしていくかという問題はとても難しい問題ですが、人間誰もが向き合って行かねばならない問題と言えます。

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